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越谷の“クリエイターズビレッジ”へ。才能が集まる家、蒲生「WAnest(ワ・ネスト)」

2014年秋に完成した賃貸集合住宅「蒲生シュミグラシ WAnest(ワ・ネスト)」。

蒲生とは思えない、緑豊かな敷地にゆったりと連なる赤い屋根の建物群が、この一帯でひときわ異彩を放っている。

WAnestは、長いこと駐車場だった場所だが、オーナーである大和さんのご家族と設計を務めたスタジオ・アーキファーム一級建築士事務所の峯田建さんと恩田さんが熟考の末、 “蒲生らしさ”に辿り着いた場所だという。

今回は、WAnestの設計思想に迫る。すると、蒲生の新たな魅力が見えてきた。

WAnestをつくった、オーナーと建築家の運命の出会い

ーー峯田さんは建築家として、「WAnest」の設計に携わられることになったと伺いました。元々、ここはどんな場所だったんしょうか?

峯田建さん(以下、峯田):いま、WAnestが立っているこの土地は大きな駐車場でした。元々は墨田区で工場を経営していたWAnestの現オーナー大和さんのお父さまがランドセル工場をしていた場所なんです。

そして、工場自体は昭和40年代に廃業、更地になったと。

そして今から約30年ほど前、市が区画整理を行った際、税金が高くなるからと半分には3階建てのマンションを建てたものの、残りの900坪は賃貸駐車場にしたそうです。

そんな土地なので当然、何社からもアプローチがあったと聞いています。マンションはもちろん、店舗、スポーツジム、スーパー銭湯など、いろいろな営業を受けたそうです。

大手デベロッパーからテンナント保証付きの施設の打診があった時には、家族はそれで進めようとしたらしいのですが、大和さんのお父さまが、簡単に首を縦には振らなかったと。

それは、どこにでもあるような「画一的な場所にはしたくない」という強い思いがあったからだそうなのです。

なかでも印象的なのは、10階建てのマンションの話があったときの話です。

オーナーのお父さまが蒲生で10階からの景色はそれほどすごくないだろう、高いところに住んでいる人が偉そうなのは嫌いだと言い、それでおしまいになったと言います。

ーーそのぐらい大和さんのお父さまのこだわりはすごかったと(笑)

峯田:はい(笑)いずれは何かを建てようという意図はあったものの、それが一般的なマンションでないことは確かでした。

その後お父さまの体調の悪化もあり、次男の大和徹行さんが企画のバトンを渡されました。

そして、都内の賃貸物件を見学するなど、大和さんたちの長い模索が続いたそうですが、ヒントを得たのが、栃木県の益子にあるスターネット

スターネットは古民家をリノベーションした、ギャラリーや工房やオーガニックカフェを持った空間です。馬場浩史氏が生活をしながら仕事ができる場所として設えた、ハイセンスなところです。地域に開いた自己実現の場所づくりを始めた、いわばパイオニアと言っても過言ではないでしょう。私も以前から素敵な場所だと感じていました。

ーー益子には確かに、オリジナルなまちの雰囲気がありそうです。

峯田:そうですね。益子には民芸運動の名残もあってか、工房やおしゃれなカフェがあって、いろんな職人やクリエイターが集まる場所になっています。

僕たちが大和さんと出会ったのが、ちょうどそんなとき。

東京芸術学舎で私が担当した「古民家から学ぶエコな暮らし」という講座で大和さんに出会い、土地の活用について相談されたんです。2010年のことです。

そして2011年、東日本大震災の2日後、Wansetの敷地隣のサンマルクで打ち合わせをすることになったんです。

そのとき、大和さんは「癒しの空間が木々の中に点々とあるような、環境に配慮した建物で時代が変わっても残るものをつくりたい」という話をされたんです。そして、「イギリスの田舎町みたいな佇まいで、ずっと住みたい人、住み続けたい人がいる物件にして、いずれは重要文化財になったらいいなぁ」と。

そして、大和さんが描いてきたイギリスの田舎風のスケッチを見せられたんですが、緑と建物のバランスに共感するところがあり、一言目に「いいじゃないですか」と言ったのを覚えています。

同時に、「イギリス風を模して作るとテーマパークみたいになってしまい、安易な佇まいになってしまいますよ」とか「土地に根を張らない建築は結果として長くは残らないんですよね。」というような話もしました。

そんな会話の中で、ふと「つくるならスターネットのようなセンスの施設がいいですよね」というところで意気投合したのです。

蒲生らしさとは何か。いまは亡きオーナーの想い

ーー方向性が見えてきた「WAnest」ですが、“蒲生らしさ”をどのように見つけていったんですか?

峯田:都会でもなく、リゾート地でもない立地に対して、どのような特長を引き出せば良いのかが問題でした。

集合住宅を計画するにしても、立地条件で比較されると都会の利便性やリゾートの景観には敵わない。

でもこの場所は、土地の広さがあり、建物価格に対して地価に余地がある。都内のように地価が高いと高層にしないと採算が取れないけど、ここでは、低層の建物で共用部が複数設置できる余地があり、加えて緑や水を豊かに配置できるスペースも確保でき、都内に出るのもリゾートほど不便ではない・・・。

ーーなるほど。悪く言えば、中途半端なところが、蒲生の良いところだと。

峯田:ええ。そこを活かせないと等質競争では負けるだろうと。

またWAnestをつくる前から、蒲生周辺に1Rマンションなどがたくさんできていたんですが、空き家がポチポチとある状態で空き巣の被害にあう家も意外と多くあったそうなんです。

それが、WAnestを構想するうえでのヒントになりました。

問題は、「昼間の人口があまり多くない」なのではないかと。

越谷って、まさに寝に帰るための場所。

ベッドタウンだから意識も都内に向いていて、都内で飲んで帰ってくるという人も多い。

僕は、そこを考え直した方がいいんじゃないかと思ったんです。

ーーそれは、僕も強く共感します。

峯田:「この場所に長くいてくれる人はどんな人だろう」

そう考えると、リタイアされた方や都内に勤めつつも、在宅勤務が可能な方。

あとは、趣味的なことをやっている方など、とにかく「昼間の滞在時間が長い人」を集める必要があるなと。

お金を掛けて、セキュリティをよくするのではなくて、そういった人々が集まって住み、みんなの目で見ることで、治安の面も解決できるのではないかと。

みんな顔見知りな、昔の下町のような感覚ですね。

長居してくれる人を増やしたい。そのためには、暮らしやすくて、長居できる環境が必要だと。

つまり、どういう人が集まったら、これまでの問題が解決できるんだろう?と考えたんです。

そうして僕たちが提案したのは、寝に帰るだけの住まいではなく、趣味を楽しむ生活がしたい人、在宅勤務やフリーランサーが暮らせるような「村」をつくろうということでした。

でもこういった物件は都心でやろうとすると、なかなか採算が合いません。

とはいえ、ここでも赤字にはならないものの、大きく儲けることは難しい。

でもこのプランを、大和さんのお父さんにもお見せしたら、「面白い」と言ってくれたんです。

その理由は、大和さんがWAnestのすぐ隣にあるレストラン「サンマルク」を始めたときのこと。

このゆったりした緑の雰囲気が蒲生に住む人たちに感謝されることが多かったそうです。

多分、大手のファミレスチェーンたら、そうはならなかっただろうと。

ちゃんとしたものをつくれば、ここに暮らす人々も喜んでくれるという原体験もあり、我々が提案したWAnestの構想にも賛同してくださったんです。

集落や村をテーマにした集合住宅。他にはない「蒲生風をつくろう」と。

ーーこの立地の特性を活かしたものが、自然と蒲生風になると。

峯田:はい、そのコンセプトのもと、大和さんとこの場所だからこそできる、新しい住宅の形を擦り合わせていったんです。

そうして、最終的にできあがったコンセプトが「シュミグラシ」です。

全住戸に居住空間だけでなく、趣味を楽しんだり、仕事場やアトリエとしても使える趣味室を設け、共用のスタジオや工房、カフェなども併設。

入居者が地域とつながりながらこの場で暮らしを楽しめるような設計にしました。

恩田恵似さん(以下:恩田):「多様性」も大事にした点です。

静かに暮らしたい人、周囲と交わりたい人、趣味の幅を広げたい人などいろんな人が住める住宅にしたいと考えたんです。

くわえて大和さんのお父さまは、地域や若い人に貢献したいという強い意識がありました。

収益性よりも、蒲生らしく、他にない良いものを作って残したい」と。

それに、「大手と競争するのは難しいから、オリジナルなもの、独創性のある他にないものをつくれ」と普段から口酸っぱく言われていたそうです。

この物件はその意に沿ったものになったと思っています。

2014年に無事オープンを迎えたWAnestですが、それから数年後、オーナーのお父さまは、しっかりとそれを見届けて、亡くなられたのです。

想定外だった相次ぐ若いクリエイターの入居。WAnestは、住人同士や地域の人が繋がる“ひらかれた”場所

ーーオーナーとお父さまが描いていた地域への想いを、峯田さんたちがうまく具現化されていったと。ちなみに、入居者の方はどういった方が多いんでしょうか?

峯田:当初はリタイア層の入居を想定していたのですが、実際には情報感度の高い都内近郊に住む20代、30代の若いアーティストやクリエイターの方に多く入居いただくことになりました。

それは恐らく、若い人たちが起業を試せる場所が少なかったからではないかと。

趣味や好きなことを仕事にしていきたいなどと考えたときに、生活と仕事の場を2カ所借りるのは負担が重いですよね。

でも、10万円ほどの家賃で住居に加えてアトリエや仕事場も提供できるのは、蒲生という場所だからできることだと思いますし、それを一度に叶える空間として、ここがちょうどよかったんじゃないでしょうか。

ーー僕も昔、自宅を職場にしてフリーランスをしていたので、こういった物件はとても理想的かと思いました。具体的には、どういうお仕事をされている方が多いんでしょう?

峯田:ここを巣立っていった方も含めてですが、デザイナー、ライター、鉄道写真家、作曲家、スポーツトレーナー、アパレル、セレクトショップ、ネイリスト、美容師、和菓子職人など、本当に様々です。

例えば、ここがオープンした当初から今も入居している20代の若いデザイナーとイラストレーターの方。

いずれは独立して2人で事務所を持ちたいと思っていたそうなのですが、東京と神奈川から引っ越してきて、「自分たちにうってつけの物件で、内覧に来てすぐ入居を決めた」と言っていました。

イラストレーターの方は、ここでフリーのイラストレーターとしてスタートし、デザイナーの方は会社に勤めながら、夜や週末は、2人で組んだデザインユニットとしての仕事に励んでいます。

恩田:ちなみに、オーナーの大和さんの名刺もここに住むデザイナーの方が、もっとオシャレな方がいいから、とカッコいい名刺を自発的に制作してくださったそうですよ。

また、今は卒業されてしまいましたが、歌手のJUJUさんや西野カナさんなどの作曲を手掛けられた著名な作曲家や、NHKBSなどで番組を持つ鉄道写真家の方も入居されていましたね。

ちなみに、WAnest 』のnest は『巣』を意味します。すでに活躍されている方もいらっしゃいましたが、ここから新たな才能が大きく育って、世の中に羽ばたいていって欲しいですね。

ーー実際の物件はどんな風になっているんですか?

峯田:建物は東西の長屋と独立した住棟を2つの中庭を囲むように配置しています。中庭の周りには屋根のある通路が巡らせるよう設計しました。

住戸は、通路に面して趣味室があり背後に住居のあるタイプ。通路に面して趣味室があって2階に住居のあるタイプ。玄関がなく、テラスから入る長屋2階のロフト付住戸。など、さまざまな間取りがあります。

これらは、趣味や仕事を自宅できるようにするための空間設計を意識したからですね。

たとえば、西の中庭に面した一画には通路沿いに9畳の趣味室、その背後に6畳の住居がある住戸があります。

もちろん、ブラインドなどで隠すこともできるんですが、趣味室は外からも見えるようにつくり、趣味の作業場、自宅で作業をする人の仕事場、作品を披露するためのギャラリー的な空間などとして使えるようにしたんです。

そうやって、「自分を取り戻す場所」として、部屋にこもってじっくり自分の作品づくりに取り組む場所であり、各クリエイターやアーティストの進化や成長が見える場所になったらいいなと。

ーーここで暮らすことが本当に楽しそうです。他にもこだわりはありますか?

峯田:入居の申し込みがあったときには大和さんが入居希望者全員と面談、この住宅について思いを語り、それに共感できる方々が入居を決めています。

居住者の方と良い関係が築けているのも理由かもしれません。

それと、住戸の中心にある中庭、建物中央部に配された3つのスタジオも特徴のひとつです。

個人の専用部分は必要最低限ですが、共用スペースを設置したことで、それをみんなでシェアするという楽しさもあります。

中庭のある住宅だけなら他にもあると思うんですが、これだけの広さを取ったところは少ないと思います。

歩いているだけでゆったりした気持ちになれる空間設計もこだわったところですね。

ーー確かに、このいったいだけ、周りとは全く違った空気が流れています。中庭は特に広いですしね。

峯田:西の中庭は時々イベント会場として使われていて、柱の間にテーブル席を作り、ジャズやクラシックのライブを行ったり、七夕に笹を飾り、集まった子どもたちにスイカをふるまうなどして利用しています。

エントランス脇にあるカフェにもその設計思想を取り入れています。

恩田:元々は集会室をイメージしてつくった空間ですが、今は飲食店をやってみたい人がチャレンジする場になっていて、現在は曜日ごとに営業しています。

昼間のカフェタイムが終わると、違うメンバーが来てその後にバータイムをやる日もあるんです。

ーー僕も、越谷の野菜などがカップカレーで楽しめる「K Curry」を始めたので、いずれは場所をお借りして、カレーカフェをやってみたいです。

峯田:良いですね。空いている日もたまにあるので、ぜひご活用ください(笑)

ちなみに、ここの住民の方以外にもスタジオをお貸ししています。

当初は主に入居者の趣味仲間のための施設と考えていたのですが、地域住民に借りたい方が多く、特にスタジオ1は夕方からの時間を中心にほぼ全日利用されています。

体育館のように高い天井のあるスタジオ1はヨガやダンスなど体を動かすアクティビティに、アトリエとして作られたスタジオ2は美術教室として利用され、スタジオ3はセミナーや上映会などにも使われています。

ここの近くに住む小中学生の父母集会や会社の研修場所などにも使う方もいらっしゃいますよ。

WAnestを通して、ここに住むアーティスト同士や地域住民が交わる場所になったらいいなぁと。

蒲生を、クリエイティブな人が集まる「クリエイターズビレッジ」へ

ーーお話を伺っていると、ますますこちらに住みたくなってしまいました。最後に、WAnestや峯田さんたちのビジョンを教えてください。

峯田:実はWAnestには、まだ余白があります。未完成な建物なのです。

予算の関係で実現はできていないのですが、この敷地内に、学生向けの「シェアルーム」や、職人とその弟子が住めるような「工房兼住居」と「丁稚棟」をつくりたいという構想があったんです。弟子は昼間は親方の工房で作業するので、が「丁稚棟」は小さな個室の集合体です。

僕たちも独立仕立ての頃、住居と事務所の家賃を払うのは正直、大変でした。

その経験があったこともあり、好きなことに没頭し生活できるような、仕事と生活が一体化した住居空間があったらいいなぁと思っていたんです。

そして、そのニーズが確かにあることも分かりましたし、これからそういった住居を求める人も多くなってくることでしょう。

だから、これからは「工房兼住居」と「夢はあるけど、お金はない若者」に必要な環境をワネストに加えてみたいと思っています。

それは、クラウドファンディングで資金を集めたり、その想いに共感してくださる方から直接資金を募ったりすることで、みんなで育てるようにできればなお面白いですね。

ーー「夢はあるけど、お金は多くはない若者」が羽ばたく場所になったら良いですね!

峯田:まさにそうですね。

それもこれも、大和さんのお父さまが儲け第一主義にならず、「地域に貢献したい」というブレない心と明確なビジョンがあったからかと。

僕たち建築家だけが一方的に「こういうものをつくりたい」と伝えても実現しなかったでしょうしね。

ーー蒲生って、有名な漫画家や小説家など、創作活動の拠点にしていた方も多いと聞いています。

峯田:それはきっとこの場所の長閑な感じを好む作家さんが多いからなんでしょうね。

ゆったりとしているから、よりクリエイティブになれるのかもしれません。

恩田:越谷に来てみて分かったんですが、ここって主婦の方や若者、会社勤めの方など高いスキルをお持ちの方が多いんです。

ただ、今はそれが顕在化されていない。

そういったスキルを持っている人が、WAnestで教室やワークショップを開くなど、自己表現してみんなと交流する場所になったらいいなぁと。

峯田:これからも、オーナーのお父さまの想いを継承して、多くのアーティストやクリエイターが巣立つ場所にしていきたいですね。

ーー蒲生は職人さんが活動していたり、こだわりのある個人店も多いので、そういった文脈にも合っていますね。より蒲生が好きになりました!本日はありがとうございました。

蒲生シュミグラシ・WAnest

住所:埼玉県越谷市蒲生茜町23−2

URL:http://wanest.jp/

企画・インタビュアー・文 :青野祐治 / 撮影:藤田昂平

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