menu
menu

この世界で楽しく過ごせるきっかけに – アップアンドハッピー代表松﨑玉美さんに聞く発達障がいと心の病

この世界で楽しく過ごせるきっかけに – アップアンドハッピー代表松﨑玉美さんに聞く発達障がいと心の病

越谷市東大沢でさまざまな生きづらさをサポートする「アップアンドハッピー」。

代表の松﨑玉美さんは「ハッピーコンサルティング」というかたちで2年半で100人以上の生きづらさに寄り添い、自信を持って生きてもらうためのサポートをしてきました。

多くの人が抱える生きづらさとは何か。楽しく生きるにはどうすべきか。自身も発達障がい当事者として特性をコントロールしながら日常生活を送り、過去には心の病を改善したという松﨑さんにお話をうかがいました。

幼少期からコミュニケーションに不安を感じていた

ーー松﨑さんは発達障がいの当事者とお聞きしましたが、自覚されたのはいつごろだったのでしょうか。

松﨑玉美さん(以下、松﨑):内向的な性格や吃音症、発達障がいの特性もあり、幼少期からコミュニケーションの仕方が分かりませんでした。私は*場面緘黙症で、家以外ではほとんど声を出さずだれとも話せなくて。

口から出た言葉は戻せないというのが怖くて、どうしてみんなスムーズに言葉が出るんだろうと思っていました。話しかけるタイミングはつかめないし距離の縮め方も難しい。

学校では友達ができないし、親とのコミュニケーションもうまくいかない。私は何かが違うんだなぁと少しずつ自覚していきました。

※場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)・・・社会不安(社会的状況における不安)のために、ある特定の場面・状況では話すことができなくなる疾患。 幼児期に発症するケースが多い。

ーーコミュニケーションが苦手な状態はずっと続いたのでしょうか。

松﨑:絵を描くことが元々好きで、小学3年生の時に休み時間に教室で描いていた時に、クラスメイトが話しかけてくれるようになって、少しずつ話せるようになっていきました。

でもブランクが長かったのであまりうまくは話せず、居場所がないと感じていました。高学年からはいじめられるようになり、中学では不登校になり、その後は統合失調症の診断を受け、高校、専門学校と進学しましたが、大人になってからはアルコール依存や買い物依存になりました。

歌舞伎町で飲み明かして道路で寝てしまったこともあるんですよ。精神科にも計4回入院して、本当に20代前半はつらかったです。

イメージや思考法を変えて前向きに

ーーそれだけの生きづらさがあったにもかかわらず今は前向きに生きていらっしゃるように見えます。ターニングポイントはどこだったのでしょうか。

松﨑:4回目の入院をしたときです。不眠からくるストレスで安定剤を大量に飲んで病院へ運ばれたのですが、そこでパニックになって先生を殴ってしまったんです。今までリストカットなどの自傷行為はありましたが他人を傷つけたのは初めてでした。ショックでしたね。他人に危害は与えない、という自信が崩れたことでいろいろ考えました。

今まで死にたくなっても死ねなかった。でもうまく生きられない。でも死ねないなら生きるしかない。でも生きるなら目標や生きがいがないと無理。そんなことを考えました。

ーーそこで前向きに考えるようになったのですね。

松﨑:そうですね。自分も患者という立場でしたが、ほかの患者さんを見てなにか手伝いたいと思ったんです。それならまずは自分の心の病を治さなくちゃって。

何歳までに仕事を始めてそのあとはセミナーをやって出産もして…と構想を練りはじめたら生きるのが楽しくなりました。このときやりたいと思ったことは、今ほとんどかなえられているんですよ。思考を未来に向けるとこんなに世界が変わるんだと実感しましたね。

ーー思考はすぐに変えられるものなのでしょうか。

松﨑:私はできることから始めようと思い、まずは自分を責めることをやめました。自信がなくてストレスを感じるとさらにネガティブになりますし、自分に「できない」と言い続けるとさらに苦手だと感じて挑戦意欲もなくなってしまいます。

自分ができる事に目を向けて成功体験を積むことが必要だな、と。失敗を責めるのではなくできたところを褒めて次へつながるフォローを入れることで少しずつ変わっていきました。

ーー「自分を責めることをやめる」…シンプルですが難しく感じますね。

松﨑:ただ「責めない」だけでなく、私は心の中に2人の私を作りました。感情をダイレクトに受け止める「子の私」と、自分を俯瞰して見る「親の私」という2人です。「親の私」が「子の私」を育てていくイメージで、自分で自分の機嫌をとっていきました。

心が弱ってしまう人は不安に対して真面目に悩んで向き合おうとするじゃないですか。でも心が健康な人は次の日になったら忘れてしまいます。「なんでそんなことできちゃうんだ⁈」ってことを平気でやっちゃう。自分を責めないクセづけが無意識にできているんですよね。

だから心が健康な人がやっているように、「子の私」がストレスを感じたら「親の私」が気にかけてあげるようにしました。そろそろアイスで気分転換しようとか、パーッと遊んで充電しようとか。「子の私」と「親の私」を行き来できるようになると、生きるのがぐっと楽になります。このやりとりが実際の子育てにも生きているんですよ。

ーーストレスにも冷静に向き合えそうですね。実は私もひとり反省会をしょっちゅうしてしまうタイプなので参考にします。

松﨑:ひとり反省会ってつらいですよね。でも思考を理解すればやめられますよ。

ひとり反省会をしやすい方と、しにくい方の違いはスマホやパソコンの画像フォルダをイメージするとわかりやすくなります。これはあくまでわかりやすく表現した例えですが…。

ひとり反省会をしにくい方は時系列に思い出が並んでいます。ひとり反省会をしやすい方は時系列に並んでおらず、時間軸に沿わずに思い出が片付いていない状態と考えてください。

ーー言われてみるとその通りかもしれません。

松﨑:反省したい内容で思い出がつながってしまっているから、「今」と「昔」が入り乱れて今の状態が分からなくなってしまうんです。

今の失敗に昔の失敗をひもづけてフラッシュバックし、今の感情が昔のつらいところに引っ張られてネガティブなひとり反省会が始まってしまいます。だから反省ごとでつなげず時系列に並べるよう意識し、最終的に「今」を一番上に置くクセをつけると楽になるはずです

ーー理屈が分かると対策しやすいですね。おかげでひとり反省会が減りそうです。

松﨑:言ってみれば「今を生きろ」「昔のことは昔のこと」というだけのことなんですけど、そんな正論をストレートに言われても困りますよね。そんなことは分かってる、分かってるけどできないんだよって。日常の困りごとは思考の理解とクセづけでぐっと楽になります。

発達障がいも同じです。特性を理解して納得できる対処法を身につければ大きな問題なく過ごせます。平穏に過ごせれば自信がつき、自信がつけば発達障がいの特性はコントロールできるようになって心の病も改善します。ハッピーコンサルティングの役目はその人に合った対処法を伝えてサポートすることなんです。

ハッピーコンサルティングは未来に向き合う

ーーハッピーコンサルティングはただ話を聞いてもらうだけの場ではないんですね。

松﨑:はい、ハッピーコンサルティングでは生きづらさや困りごとへの具体的な対処法を伝えて日常で実践してもらうようにしています。だいたい半年から1年くらいで、実践をくり返して自信をつけ卒業してもらうというスタイルです。授業を聞いて家で勉強して分からないところは次回に質問するという学習塾に近いかもしれませんね。

発達障がいや心の病の有無にかかわらず、この世界は生きていくのが大変だと思います。仕事、家族、友人、子育てなど、今の困りごとだけでなく今後も壁を乗り越えて生きていくためには、自分で考えて動けるようにならなければいけません。

だから私は現状をなんとかするだけでなく未来までサポートできる方法、一生使える方法を伝えています

ーー心療内科や精神科といった病院とは違うアプローチということでしょうか。

松﨑:はい。通院されている方は今まで通り通院を続けていただき、ハッピーコンサルティングで根本的に改善を目指す過程で症状が落ち着いてきたら、 主治医とご相談の上で少しずつ減薬していただいています。

ーーハッピーコンサルティングはどんな人が利用する場所なのでしょうか。

松﨑:診断や通院の有無にかかわらず、生きづらさや困りごとを感じている人に来てほしいです。原因がはっきりせずモヤモヤしている段階でも構いません。早いほうが改善までの時間は短くて済みますからね。具体的には日常で楽しい時間よりつらい時間のほうが多いと感じたら検討してほしいです。

少しずつ増えるつらいことにまともに向き合ってしまうとうつ状態になってしまう可能性もあります。つらい時間が長くその時間を楽しい時間に変えたいと思ったらぜひ声をかけてください。

発達障がいと定型発達、理想は50:50の関係

ーー今後はカフェをオープンする予定だとうかがいました。

松﨑:コロナの影響で今は見通しがたたない状況ですが、オープンは決めています。カフェは生きづらさを抱える人が気軽に話せる場、自分の特性や苦手をオープンにしてコミュニケーションがとれる場所にしたいと思っています。

さらに現状で生きづらさを感じていない人が自分のまわりの生きづらさを抱えている人を誘って連れて来られる場所になればなおうれしいです。発達障がいや心の病はどうしても暗いイメージがつきまとってしまうんですよね。どう扱えばよいか分からないという人も多いでしょうが、オープンにして楽しく生きられるということを伝えたいです。

ーーたしかに発達障がいの当事者とそうでない定型発達者、今はお互いにどうコミュニケーションをとるべきかと悩んでいる印象があります。

松﨑:定型発達者とのかかわりは発達障がいの当事者の大きな課題です。発達障がいの当事者は定型発達者に対して「どうせ分かってもらえない」と決めつけ、定型発達者は「アスペルガーだから」「発達障がいだから」と属性でくくるなど、お互いにコミュニケーションをあきらめてしまう場面が見られます。本当はいろいろな人に認めてもらったほうが生きやすいんですけどね。

発達障がいというのは個性や性格では片づけられないほどの大変さを抱えています。

自分から歩みよることなく「理解してほしい」と言うだけでは難しいでしょう。コミュニケーションの基本は50:50。発達障がいの当事者も定型発達者も、お互いに歩みよって50:50の関係を築ければと思っています。

理想は「発達障がいだから」「定型だから」ではなく「○○さんだから」という関係になることです。私の話になりますが、ADHDと診断されたときに友達から「そうなんだ。でも玉ちゃんは玉ちゃんだよね」と言われました。何気ない一言だったのですが、自分の本質を見てもらえたようですごくうれしかったんです。みんなが発達障がいだとか定型発達だとかに縛られず、その人自身として向き合えればもっと生きやすくなるんじゃないかなと実体験から感じました。

楽しく過ごすお手伝いをしたい

ーー最後に、生きづらさを抱える人にメッセージをお願いします。

松﨑:発達障がいや心の病など私たちのまわりにはさまざまな生きづらさがあります。共通するのは、自分に自信をつけていろいろな人とコミュニケーションをとれば世界が変わるということ。世界が変わるというのは別の世界へ行くということではなく、同じ世界にいるのに感じ方がまったく変わるということです。

今までつらいと感じていたことがつらくなくなります。同じ世界で楽しく過ごせるかは自分次第なんです。この世界で楽しく過ごせるようになるきっかけとして自分を使ってもらえたらうれしいですね。

アップアンドハッピー代表 松﨑玉美
2018年 アッピーを企業
2019年 『発達障がい害専門誌きらり。』にエッセイを寄稿
2021年 アップアンドハッピーへ社名を変更

URL: https://up-happy.online/index.html

企画・インタビュアー・文 ・撮影:高梨リンカ  / 編集:宮田和也

Sponsored Links

関連する記事

最新記事

お問い合わせ CONTACT

KOSHIGAYAZINEへのご相談は、
お気軽にお問い合わせください。
担当者よりご連絡いたします。