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「野菜ではなく人をつくる」―越谷、そして日本の未来を想う松島さんの自然栽培

越谷市の北東部、古利根川から松伏を臨むエリアに広がるのは、自然栽培で作物を育てている松島篤志さんの畑だ。

群馬県の桐生市で生まれ、都内で一級建築士として働き、今は越谷で自然栽培に心を入れるという異色のキャリアを持つ松島さん。建築と農業。一見すると関係の薄い2つの仕事を深く掘り下げることで見えてきたのは、「街づくり」という共通点だった。

自然栽培とは、農業とは、街づくりとは。松島篤志さんに話をうかがうと、予想をはるかに上回るビジョンが返ってきた。

きっかけは「妻のため」。そして広がる食や街への意識

ーーご出身は群馬の桐生市とのことですが、越谷で農業をしているのはどういった縁だったのでしょうか。

松島篤志さん(以下、松島):建築士時代は都内に家と職場がありました。実家のある桐生市は遠く、結婚して戸建てを探してたどり着いたのが越谷だったという流れです。特に越谷に強い縁や理由があったというわけではないんです。

ーー元建築士で現在は自然栽培での農業。異色の経歴だと感じますが、転身のきっかけは何だったのでしょうか。

松島:漠然と農業に対しておもしろそうとは感じていました。ビジネス的にもそうですし、社会的に必要だという思いもありました。

でも、直接の大きなきっかけは妻の病気です。越谷に来た後だったのですが、妻に大腸ガンが見つかりました。なんとかしなきゃと思い、とにかく勉強をし、同じような状況から回復していった人たちの共通点を探していくうちに食事にいきついたんです。

食べるものを意識しないといけないと思い頑張ったのですが、結局妻は旅立ってしまいました。

それからどうしようと思ったとき、この知識をどうしようか、何かに生かせないだろうかと。食の大切さはもっと多くの人に知ってほしかった。それですぐに建築士を辞めて農業の道を進むことにしたんです。

ーー建築士としての道を離れるというのはとても大きな決断だったと思います。後ろ髪をひかれるような思いはなかったのでしょうか。

松島:もちろん100%ないとは言い切れません。でも、建築士として得たものはこれから違うかたちで生かせると思ったので、悲観的な思いはありませんでした。

農業って街に直結していて、街とのかかわりは絶対にあると思っています。農業には街の存在が欠かせません。建築士時代から街づくりは意識していたので、そういう点では農業という違う道を進んだとしても根っこの部分は変わらないのかなと。

地方が寂れていくというのは社会的な問題にもなっています。街づくりや地方創生は大事なことですから。農業でも自分の経験を生かして、貢献できることがあるのではと思いました。

雑草はあえてそのままに。土を究める自然栽培

ーー有機農業や無農薬野菜という言葉はよく聞きますが、自然栽培はあまり馴染みがありませんでした。どのような農業かお聞かせください。

松島:自然栽培は「肥料・農薬・除草剤を使わない」というのが特徴で、堆肥などの有機肥料も使いません。映画「奇跡のリンゴ」のモデルとしても知られる木村秋則さんが提唱した農法で、それまでにあった自然農法を参考にしたものです。

除草剤は使わないので草刈りすることもありますが、あえて残しているというのもあるんです。土や作物の様子次第ですね。

―そういえば畑にも雑草が多くありましたね。

松島:はい。作物が雑草に負けないよう調整しています。ただ放置してあるわけじゃないんですよ。

山の樹木って、人が雑草を抜いてあげなくても元気ですよね。どうしてだと思いますか?

山の樹木には下草が生えています。下草は枯れて樹木の養分になるから、人が手を加えなくても山の樹木は元気なんです。

畑も同じです。ある程度雑草を生えさせ、それが土に返ることで土が活性化して作物の栄養になるというわけです。

ーーあえての雑草……奥が深いですね。

松島:肥料や農薬を使わない分、作物と土の相性がなによりも大事なんです。まずは手あたり次第育ててみて、その土ごとに育ちの良いものを見つけていきます。土に合わずダメになった作物もたくさんあります。こっちの畑では良くできたのにあっちではダメだったとか。

しかも土の状態は日々変わる。前年うまくいったものは翌年もうまくいくんですが、連作障害(同じ作物を同じ場所で作り続けることで起こる生育障害)ということもありますからね。3年目の今、だいぶ土の土台はできてきたとは思っていますが、もちろんまだまだだなという思いもあります。

目標は土を究めて健康的な作物を育てること。

何もしないできれいな作物ができたら理想ですよね。

自然栽培で作られたニンジン

野菜ではなく人を作る農業だからこそ、僕がやる意味がある

ーー自然栽培は時間と手間がかかるんですね。

松島:そうですね。でも、楽しいんです。おいしいものを作っているっていうのは大きな魅力だと思います。

ーー自然栽培だと、味も変わりますか?

松島:違うなって思います。化学肥料を使うと、野菜に少し薬っぽい味が出るんですよね。

自然栽培で作った野菜は、密実って言うんですかね。化学肥料や有機肥料を使わないので育つのがゆっくりな分、香りは強く味も濃くなります。野菜そのものが凝縮されるので、クセのある野菜はクセも強くなるんですけど。

野菜を使ってくれているオンマテーブルさんではうちのニンジンが好評みたいで。フライにしたら甘みがぐっと増すと、シェフも気に入ってくれているようです。

いろいろと調べているうちに、自然栽培の野菜は抗酸化力が一般の野菜よりも高くなるという成分比較も見ました。抗酸化力が高いということは体が酸化しない、つまり細胞の劣化が抑えられるという事です。味だけでなく栄養も変わると言われているんです。

ーー時間と手間がかかっても自然栽培にこだわるのは、やっぱり味や栄養が理由なのでしょうか。

松島:うーん、農業を始めるときに妻の存在が大きかったので。やるなら「体にいいもの」をつくろうと思いました。そうじゃないと、僕がやる意味はないなと。

農業って、人が食べるものをつくるんです。

だから「野菜をつくるんじゃなくて人をつくる」、そう思っています。

越谷に限らない。もっと良いものを日本中へ広げたい

ーー農業は街とのかかわりが不可欠とおっしゃっていました。なにか街とのかかわり方にビジョンはあるのでしょうか。

松島:もちろん野菜を使ってもらえる飲食店は広げたいのですが、もっと野菜について、自然栽培について知ってもらいたいという思いもあります。

色んな人に自然栽培の野菜を食べてほしい。なかでも子どもに食べてほしいですね。子どもの野菜嫌いには、野菜自体の味にも問題があるのかもしれないって思うんです。子どもには化学肥料の味が分かるのかもって。子どもは野菜が嫌いなのではなく、野菜がまずいだけなのではないかって。

自然栽培の野菜はピュアな野菜の味がするので、ぜひ食べてほしい。それこそ給食にでも使ってもらえたら嬉しいです。

ーー私も子どもがいるので、もし給食に出たら嬉しいです。

松島:給食として子どもたちが自然栽培に触れるようになれば、自然栽培という農法がより身近になります。そうやって興味を持つ人が増えてくれたらまた嬉しいですね。

ーー商工会のセミナーなどにも顔を出していらっしゃると聞きました。

松島:街でいま、何が起こっているかを知りたくて参加しています。情報収集ですね。それに人ともつながれますし。

僕も今ではいろいろな人やお店とつながれるようになってきましたが、はじめの一歩はイベントのボランティアでした。AchaAcha(アチャアチャ)というイベントの会場設備をお手伝いして人とつながり知り合いも増えました。

ーー農業だけでなく積極的に街とかかわろうとしていらっしゃるんですね。

松島:そうですね。農業だけにこだわらず、とにかく街がどうおもしろくなるかと考えています。

今は越谷の籠染めが僕の中でアツいんです。浴衣などの生地の藍染め方法のひとつなんですが、裏表の柄が違うのが特徴で、おしゃれでかっこよくて艶っぽくもある。すでに工場もなくなって染め物もおこなっていないんですが……もったいないと思いませんか?

今は残っている生地を使って小物を作っているようですが、たとえば作家さんにデザインしてもらうなどしてもっと収益化し、籠染めを復活させられたら……漠然とですが、そんな風に思っています。

街にかかわるだけじゃなくて、越谷をもっとおもしろい街にしたいなって。そのためにはどうすれば良いかと考えています。

ーー松島さんにとって越谷は愛着のある場所になったということでしょうか。

松島:せっかく住んでいるんだし、という気持ちはあります。でも、越谷のためだけってわけではないんですよね。こういった地域産業に興味を持つ人は環境や食べ物にも興味を持ってくれます。だから農業とも無関係ではないんですよ。

農業は日本中のどこにでもある産業です。だから地域の農業が元気になれば国も元気になる。越谷でできたことは別の地域でもできるはずです。越谷には可能性があり、それは日本中どこにでも可能性があるってことにもなります。

各地域がそこの資源を使ってうまくやっていけば、日本全体に波及します。どうせなら日本がおもしろいところになってくれたほうがいいじゃないですか。

ーー「足元から広げていく」というのがキーワードになるんですね。

松島:そうですね。街の面白そうなことにも興味を持ちながら、食の大切さを伝えていきたい。

だからこそ、少し高くても自然栽培の野菜を買ってほしいなって思います。たくさん買ってもらえれば少しずつ値段も下げられるようになりますし、「自然栽培農家がもうかってる!」なんて思ってもらえたら自然栽培に興味を持つ人も増えるかもしれません。スタッフとしてやってみたいという人が出てくれば効率も上がって値段にも還元できます。

次回対面販売日程

日時:8月21日(水) 11:00〜13:00

場所:茶のみ すず

住所:埼玉県越谷市北越谷2-38-10

備考:月1回のペースで販売

ーーもっと多くの人に自然栽培を選んでもらえると良いですね。

松島:そうですね。だけど、有機栽培や一般農業も大事だと思っています。食材が効率よく安い値段で手に入れられるのは大事なことですから。

ただ、それらには体に良くない成分が入っていることもあると知ってほしい。僕は自然栽培の良さや必要性を知って実践していますが、すべて自然栽培の食材になってほしいわけではないんです。選択肢のひとつだととらえています。

僕と同じように安心で安全、味も栄養も優れた野菜を食べたい人ってたくさんいるんじゃないかと思っていて。そういう人たちの選択肢になれたら良いかなと。

根底には「良いものを食べてほしい」という思いがあります。ちゃんとした物を食べたら元気になるし、何よりおいしいんだと。自然栽培というものを展開、シェアしていくことで、たくさんの人に気づいてもらえたら嬉しいです。

自然栽培農家 松島篤志

URL:http://sweetpotato.chips.jp

企画・インタビュアー・文 :高梨リンカ / 撮影:細田清夏 / 編集:藤田昂平

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