複業として農業をはじめるのもひとつの手。「都市近郊の未来型農業」とは――「越谷ミライトーク#3」レポート
「早起きをして、有意義な一日を。」をテーマとした【越谷「HAYAOKI」プロジェクト】。
そのうちのひとつ、「越谷ミライトーク」の第3回が2019年6月29日(土)に古民家複合施設「はかり屋」」内の「TSURUTO(つると)」で行われた。
「越谷ミライトーク」は、毎回異なるゲストスピーカーを迎え、参加者と共に越谷の未来について考えるトークイベントだ。ファシリテーターを「KOSHIGAYAZINE」の青野祐治が、スピーカーを「TSURUTO」の大方知子さん、宇波滉基さんが務める。
第3回のテーマは、「越谷のお米と農をもっと。そして“都市近郊型農業”の未来」。ゲストスピーカーには、スカルペクツ代表の山崎綾乃さん、はちぼくカフェ代表の八木大輔さん、Share Re Green代表の瀬戸山匠さんを迎えた。
第3回のテーマは「食」と「農」
はかり屋前では、定期的にさまざまな飲食店が少し特別な「食」を届けるイベント、「TUKIO meza」が開催されている。出店する店は、はかり屋が大切にする価値観、「和のエッセンス」を体現している店舗だ。
今回のミライトークに登壇した山崎さんは、この「TUKIO meza」で行われている「甘酒の日」に、独自ブランド「komeama」を販売。生の米麹から作られる甘酒は、多くの人から支持を得ている。
また、地域ローカルメディア「KOSHIGAYAZINE」では、「この街のストーリーを“一杯で楽しむ”カップカレー【K Curry】」を現在試作中。越谷産の農産物を味わえるグルメとして、イベントでの販売を目指している。
こうした経緯から、第3回のミライトークのテーマは「食」に決まった。
市場に流通できない規格外サイズの米がkomeamaになる
午前9時に始まったイベント。まずそれぞれの自己紹介を経て、スピーカーが三者三様の「農」や「食」への取り組みについて語った。
まずトップバッターを飾ったのは、甘酒の製造販売を行う山崎さんだ。「なぜ米離れを解消しようと思ったのか」という問いに、山崎さんは当時流行しはじめていた糖質制限ダイエットを挙げた。
「寿司屋でシャリを残す女性が話題になったことも含め、米離れが加速していると感じていました。しかしその一方で、当時私が携わっていた米粉の揚げフレンチトーストは、ハイカロリーであるにも関わらず、多くの女性たちが買い求めにきていたのです。このことから、『見せ方を変えれば、米の消費につながるのでは』と思うようになりました」(山崎さん)
「このことをきっかけに、山崎さんは甘酒づくりの勉強を開始。体調を崩したことをきっかけに自身も飲むようになり、現在使用する米麹にであうまで全国の麹を取り寄せて試作を繰り返した。
komeamaの特徴のひとつは、ターゲットをアスリートにしたことだと言う。「一般的に、甘酒は美容にいいものとして打ち出されることが多いんです。ただ、komeamaでは長く続けられるものを作りたかったため、アスリートの方に愛飲してもらえることを考えて作りました」(山崎さん)
現在は、レギュラー製品の他、販売先で作られている米を使ったオリジナルのkomeamaも作っています。コラボレーションは、農家の方にも喜ばれているのだそう。
「甘酒に使う米は、市場に流通できない規格外のものを使わせてもらっています。甘酒に形を変えることで、おいしく召し上がっていただけるんです」(山崎さん)
脱サラをし、農業の道へ。喜ばれる存在になった「米の法人」
次に、はちぼくカフェの八木さんが「なぜ、松伏で米づくりを行おうと思ったのか」について語った。
八木さんの実家は、もともと農家なのだそう。しかし、父親から後継ぎになるように言われることはなく、サラリーマンとして就職し、結婚。ただ、働くかたわら農作業を手伝うことがあったため、農業への興味を抱きつづけていたのだという。
「思い切って、脱サラしました。その時期が出産と重なったため、妻には『なぜ今』と思われていましたね」(八木さん)
一般的に、「農業は大変」だといわれる。しかし、八木さんは「収入を得るまでのハードルはあったが、どのような仕事であれ大変なものは大変」だと語る。むしろ、感謝の言葉を言い合う機会が多いため、以前よりも幸せを感じているのだそうだ。
「米を作って売っているだけではなく、妻がやりたがっていたカフェもやってみようということで、『はちぼくカフェ』を開きました。農業以外の仕事を手掛けていると、周囲から半端だと言われることもありました。しかし、法人化して結果を出し始めた今は、そういった声も少なくなりましたね」(八木さん)
今後は、松伏だけではなく、越谷の田んぼも手掛ける。地主が大切にしているにも関わらず、後継者がいないために使われなくなってしまった田んぼを引き受けることになったのだそうだ。
「後継者がいなくなり、何年も放置された田んぼは、何も育てられない土地になってしまう。これまで手間をかけていた田んぼかどうかは見に行けばわかるんです。越谷の田んぼは大切にされてきたものであるとわかったため、引き受けることに決めました」(八木さん)
参加者からは、「田んぼを始めるにあたり、水害が気になる」との質問が飛んだ。
八木さんは、「このあたりで水害が起こる可能性は低いです。また、そもそも田んぼがあると街に氾濫が広がらないというメリットがあるんです。田んぼがダムの役割を担ってくれるんですね。
ニュースで田んぼが池のようになってしまったというものを見ることがありますが、実際には、ああいったことで稲が全滅することはあまりありません。稲は強いので、2~3日で水が引けば大丈夫なんですよ。こういった観点からも、街に田んぼは残すべきだと考えています」と語ってくれた。
農業に興味を持ったのはラオスがきっかけ。新規参入のハードルの高さを知った
最後に語ったのは、Share Re Green代表の瀬戸山匠さんだ。瀬戸山さんは、農業と合わせて、収穫した野菜をペースト状にしたクリームを野菜パウダーなどの商品開発を手掛けている。
「パンにバターを塗るように、野菜クリームや野菜パウダーを塗ってもらうことで、健康的な食生活を送ってもらえたらと思っています」と語った。
そもそも、瀬戸山さんが農業に興味を抱いたきっかけは、彼が好きな国・ラオスへの滞在経験だ。山奥の村に4カ月間ホームステイをするなかで、自分たちが食べるものを自分たちで作り、たい肥からまた新たな野菜を作る循環性に興味を抱いた。また、そうして作られた野菜のおいしさにも魅了されたという。
「本当は、ラオスの役に立つことをしたかった。しかし、僕には今すぐ何かができる力はありません。そのため、日本で修行をし、力をつけようと考えたんです」(瀬戸山さん)
帰国後、大学3年生で農業を始めた瀬戸山さん。そのなかでは、ようやく借りられた畑の土から産業廃棄物が掘り起こされるなど、トラブルも経験した。
「農地のトラブルから資金難に陥り、撤退せざるを得なかったことも、新規で農業に参入することの障壁の高さ、求められる”覚悟”の大きさに疑問を抱いた出来事でした」(瀬戸山さん)
結果、瀬戸山さんは出身地である越谷に戻る。そこで気付いたのが、越谷にも農地がたくさんあることだった。
「越谷は東京に近い場所です。越谷で盛んに作られているイチゴを狩りに、都内から多くの人が訪れていることを知り、都心に近い越谷で農業をすることに可能性を感じたんです」(瀬戸山さん)
再び、今度は地元越谷で畑を手に入れ、農業を始めた瀬戸山さん。農業の魅力は、できあがる生産物だけではなく、プロセスにも価値があることだと語ります。
「畑を起点に、人とのつながりが生まれました。僕は、まず鮮度のいいものが1番おいしいと思っています。越谷で採れた野菜を越谷で食べてもらうつながりを増やしていきたいですね」(瀬戸山さん)
「つながり」は、はかり屋前で行われているTUKIO mezaにも通ずる。TUKIO mezaは、コンセプトありきで生まれたイベントではなく、さまざまな人が集まってくるなかでコンセプトを作っていった。
TUKIO mezaの企画に携わるつるとの宇波さんは、「コンセプトなど、理論的に説明できることもあるんですが、まずは『とにかくおいしい』ことが大切だと思っています」と語る。
大方さんは、「はかり屋として大切にしている『伝統的なエッセンスを持つもの』を、はかり屋から広めていけたら」と語った。
「複業としての農業」「消費者の生産者のつながり」盛り上がった質疑応答
自らも農業に携わっているという参加者からは、「都市圏での農業は、消費者との近さが強み。そのため、子供から高齢者まで、どのように普及させていくのかが大切だと感じた」という意見が寄せられた。
また、「今後、米づくりを始めてみたい」という参加者も。この声に、八木さんは「米は農作物のなかでも比較的作りやすいものだと思うので、無理のない規模からやってみたらいいと思います」と背中を押した。
また、実家が春日部で農業をやっているという参加者は、「今の課題は生産者と消費者との分断だと思います。日本は全体的にまだまだ食への関心が低く、『無農薬』『オーガニック』といった見栄えのする言葉を使っていることが多いです。その結果、『農薬は敵』だという思い込みを生んでしまうのではないかと思うのです」と意見を述べた。
この参加者は、「男性はいいものを作るのが上手いが、実際の食卓をイメージできていないこともある。一方で、食卓をイメージできる女性の方が売り方は上手いといったケースもあり、夫婦両輪で上手くやっているところの話を聞くことがあるんです」とつづけた。
「実際に、オーガニック野菜や地産地消を意識して定期的に買いものをしている人はどれくらいいるのでしょうか」という宇波さんの問いかけには、多くの参加者が挙手。このテーマに興味を抱いて参加しているだけあり、意識の高さが見受けられた。
宇波さんは、この結果を見て、「昔のように国が農業を守ってくれる時代ではなく、これからは作り手と買い手がつながっていく時代になっていくのだと思っています。買い手の存在は支えになるので、これからもつづけていってほしいです」と語った。
「身近なところから気軽に始めるのもいいと思います。たとえば家庭菜園から、自分が食べるものを自分で作る経験をしてみるのもいいのではないでしょうか」と青野もつづける。
瀬戸山さんも、「複(副)業が増えているなか、農業も必ずしも専業である必要はないと思うんです」という。新規参入しようとしている人の生産物の売り先を作ることが、ハードルを引き下げることにつながるのだ。
「新しい人が増えていくと、おもしろいモデルケースが作れるのではないでしょうか」とつづける瀬戸山さんに、宇波さんも「そうしていくなかで、未来的な農業が作られていくのだと思います」とうなずいた。
春日部の実家が農家だという参加者は、「私は農家の生まれでありながら、農業に関心を持っていませんでした。今は農家出身ではない人が農業に関心を持つ時代なのだなと感じていて、おもしろい変化だなと思いました」と語る。
生産者と消費者が関わる機会を作り、農業への接点を点から面へと変えていく。「今日、知り合った人とかき混ぜていくなかで新しいことが生まれたらいいなと思います」(参加者)
一人ひとりの行動が、「未来の農業」を作っていく
最後に、ひとりずつ今日の感想を述べた。
「農業をテーマにして、これだけの人が集まったのがうれしい。若い人が出る杭になることも大切なのかなと感じました。いろいろと動きつつ、一緒に何かできればいいなと思います」(瀬戸山さん)
「あらためて農業のおもしろさを感じ、背筋が伸びる思いがした」(山崎さん)
「農業って楽しいなと再度実感した。農業は自然と向き合うものだから、言い訳できず受け入れなければならないところが難しくおもしろい点だと思います」(八木さん)
今日集まった人たちは、「食」や「農業」に関心が高い人だ。しかし、参加者の方から出たように、社会全体としては、まだまだそういったこだわりや意識は高いとはいえない。
「はちぼくカフェ」や「komeama」、「野菜ペースト&パウダー」や、現在KOSHIGAYAZINEがプロジェクトを進めている「K Curry」など、楽しい・おいしいは興味を引く大きなきっかけになる。
イベント終了後の交流タイムも大いに盛り上がりを見せた。ここから、きっとまた何かが始まっていく。
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このイベントの模様は「KOSHIGAYAZINE」youtubeチャンネルで全編公開中です!詳細は下記の動画をドン!
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