千鳥うちわ職人として越谷の伝統を世界に発信したい、職人転身への経緯について聞いてみた
元KOSHIGAYAZINEの副編集長の藤田昂平さん。現在は、越谷で千鳥うちわの職人兼自閉症やアスペルガーなどの障がいをもつ方々とうちわづくりを行うCREATIVE SHERPAを共同代表・羽塚順子さんと運営しています。
そんな藤田さんが伝統工芸の職人になろうと思ったのは20代の世界一周の旅がきっかけだったそう。なぜ千鳥うちわの職人を目指すまでに至ったのか、CREATIVE SHERPAで行っている伝統×福祉の融合「伝福連携」、藤田さんが描く今後のビジョンを徹底的に深掘りしました。
世界一周が千鳥うちわの職人を目指すきっかけに
ーはじめに、藤田さんの現在の活動を教えてください。
現在は、江戸仕立て都うちわ千鳥型の職人として活動しています。越谷市で活動している職人・加藤照邦さんから技術を継承させていただきました。
また、自閉症やアスペルガーなどの障がいをもった方々とうちわづくりを行うCREATIVE SHERPAの運営も行っています。
ーCREATIVE SHERPAについてうかがう前に、まずは藤田さんについて教えていただきたいと思います。「うちわ職人」として活動する以前について教えてください。
もともとは、橋や高速道路などを設計する大手建設コンサル企業で3年間務めていました。
当時は日々仕事で忙しく、プライベートの時間がほとんどなかったのでお金だけ貯まり続けている状況だったんです。とはいえ、自分自身趣味がなかったので、何に使えば良いかもわからず……。
そんな矢先、退職を決めたタイミングで「何に使うべきか」と考えたときに世界一周してみようかなと思いました(笑)
-それはかなり大胆な決断でしたね!(笑)
そうですよね(笑)。でも私としてはお金の使い道としてベストだと考えました。
また当時は、自分が本当にやりたいこと、自分の得意、不得意なことも理解していませんでした。
一度日本から海外に出てみて、日本以外の常識を知っていくことで自分のやりたいことも見つかるかなと思い決断しました。
-海外を訪れて、結果的にやりたいことは見つかりましたか?
あるブラジルの農園に流れ着いて自給自足やものづくりの仕事などに触れて、伝統工芸の職人になりたいと思いました。
ーなんと日本から距離があるブラジルを訪れたのがきっかけで、伝統工芸の職人を目指されたんですね。
世界一周しているなかで、日系ブラジル人の方が経営している農園をうかがう機会がありました。
その地域には日系ブラジル人の方々がたくさん住んでいて、大工や着物づくり、陶芸、革細工など、日本の伝統工芸や日本のものづくりが根付いていたんです。
ーブラジルに日本の電動工芸やものづくりが浸透しているのは驚きです……!
僕も驚きました。ほかにもそこでは、畑仕事や家畜などもされていて、それが性に合っていたようで。
はじめは1週間ほど滞在する予定だったんですが、ものづくりや自給自足の生活が楽しくて楽しくて、結局2ヶ月弱住んでいましたね(笑)。
滞在中、現地の方々から「日本の物づくりは最高だよ」と言ってくれて。
日本にいるだけではあまり実感が湧きませんが、日本という国はリスペクトされているんだなと誇らしい気持ちになりました。
また、僕自身小さいころから手先が器用で、ものづくりが得意だったのをブラジルに訪れて改めて思い出したんです。
社会人になってから特別自分の長所だと思わなかったんですが、長所だなっていうのに気づいて。いろいろな偶然が重なって伝統工芸の職人になりたいと思いましたね。
地道に目の前にいる人たちの活動を支えたい
ーブラジルの方々から掛けてもらった言葉が、現在の藤田さんの活動につながっているんですね。帰国されてからどのような経緯でうちわ職人になったのでしょうか?
日本に戻ってきて、伝統工芸品の仕事を探していたのですが、そう簡単には見つからず……。
仕事が見つかるまでの間、地元の越谷の伝統工芸やお店についてまず知ろうと考えていました。そんな矢先、KOSHIGAYAZINEの立ち上げのタイミングでお声がけいただき、関わらせてもらうことになりました。
ー世界を周って帰国した後も、越谷という地で活動することにこだわる理由を教えていただきたいです。
世界を旅するなかで、ホームレスや物を売って生活している人、物乞いで生活している人たちと出会う機会がありました。そういう人たちにも幸せになってもらいたいとか考えましたが、現地の状況を知れば知るほど、この人たち全員を幸せにすることは自分にはできないという現実を突きつけられたんです。
まずは自分のできる範囲をまず知るところから始めようと思いました。広い視野ではなくローカル思考。「目の前にいる人たちのために一生懸命やろう」と思い、越谷という地で活動したいと考えました。
伝統と福祉を掛け合わせた「伝福連携」とは?
ー続いて、藤田さんのもう一つの活動であるCREATIVE SHERPAについて深掘りしていこうと思います。伝統と福祉を掛け合わせた「伝福連携」に力を入れているとうかがいましたが、どのような活動でしょうか?
伝統工芸は後継者不足が問題となっています。将来的に僕1人だけでは継続が難しいでしょう。
そこで伝統工芸品の技術を福祉施設の障がいを持った方々と一緒に伝統を守りながら、うちわづくりに励んでいきたいと考え、活動しています。
ーどのようなきっかけで福祉の方とつながったのでしょうか?
もともとは僕発信の話ではなく、CREATIVE SHERPA共同代表の羽塚順子さんがうちわづくりの技術を福祉と絡めたいと提案してくれたのがきっかけです。
羽塚さんは以前から福祉の仕事をされている方で、この千鳥うちわの技術を福祉施設の方々と一緒にできないかと、僕の師匠である加藤さんにアプローチをしていたのですが、何度も断りを受けていたそうです。
その後、僕が越谷で職人になりたいという話を共通の知り合いが羽塚さんに伝えてくれてつなげてくれました。
ーまさに縁ですね……!CREATIVE SHERPAの共同代表として、羽塚さんと藤田さんはどんな役割分担をされていますか?
羽塚さんは本業は本の執筆や全国の福祉施設さんと仕事をされているのですが、CREATIVE SHERPAでは福祉施設さんを繋いでくれたり、材料の調達やワークショップのセッティングなどいろんな方々とやりとりしながら活動を支えてくれています。
例えば、「この施設のAさんはこんなスキルを持ってるとか、あの施設のBさんは20年ほど和紙をすく作業をしています」など、随時教えてくれています。
実際に僕もその方にお会いして、作り方を教えたうえで実際に作業を行ってもらうといった役割です。
ー具体的にどのような取り組みを行っているか教えてください。
今まで職人さんが継承してきたものを障がいの方々のお力を借りて守りたいと考えています。
障がいのある方の中には、一般就労は難しいけど細かい作業が得意だったり、好きな作業に対しての集中力がずば抜けている方もいて、細かい作業やいろんな工程がある団扇作りとは相性が良いんです。
ー相性が良いんですね!CREATIVE SHERPAの方々はどんな作業をしているんですか?
うちわづくりの工程として、持ち手をつくる、和紙をつくる、竹骨を並べるなどが挙げられます。それら作業を細分化して一人ひとりにそれぞれ得意な1つの作業を行ってもらいます。
なお、彼らの住む地域はバラバラで、群馬県や山梨県、神奈川や東京都などさまざまな人が関わりながら、木の伐採から加工、制作まで行ってくれています。
それぞれの能力がとても高く、集中力があるので細かい作業をずっと行えるスキルがあります。
僕はそんな皆さんの間に入って、皆さんが制作したものを一つのものにする中継役として活動していて、職人・藤田昂平とはまったく異なった役目を果たしています。
ー伝統と福祉という新しい組み合わせですが、周りからの理解は得られましたか?
とはいえ、職人の理解をいただくことはなかなか難しいことです。それもあって伝福連携の事例はほとんどありません。今僕自身、実現できているのはとても珍しいと思います。
「これは伝統工芸品ではない」と考える職人もいると思いますが、僕はこのような新しい連携方法も伝統工芸だし、障がいをもつ彼らも職人と言っていきたいと思うんです。方法を変えていかない限り、素晴らしい伝統はどんどん途絶えていく一方ではないかと。
実際に途絶えてしまった伝統工芸品もありますから。伝統を継承していくためにはいままで守ってきたものにプラスして、新しいアイデアを取り入れていくことが大切だと僕自身は考えています。それが職人・藤田昂平としてのテーマですね。
ーたしかに、いままで守ってきたものを崩すことに対しての抵抗も理解できます。とはいえ、継承に焦点を当てた場合、新しいアイデアと融合させることは必要だなと私も考えます。
そうなんです。しかし千鳥うちわ職人としては、僕はまだ3年という短いキャリアです。師匠も引退されてしまったので、まだ修行中ではありますが何としても千鳥うちわを継承していきたいと考えています。
また課題として、越谷でずっとつくり続けられてきたものにもかかわらず、越谷の人々からの認知が低いという現状があります。僕の師匠がいままでずっと越谷で守り続けてきた工芸品を伝えていく義務があると考えています。
今後は世界も視野に。千鳥うちわの可能性を広げていきたい
ーこれからの展望を教えてください。
越谷の千鳥うちわについてもっと知ってもらう機会を増やしたいですね。
実際に去年から月1〜2回ほど複合施設などでワークショップを行っています。
ーとても興味があります!ワークショップでは実際にどんな体験ができるんでしょう?
まずは全工程を皆さんに体験してもらいます。その工程のなかで「この作業なら私できる!」と思ったらぜひCREATIVE SHERPAなどで実際に働いてもらうきっかけにもなってほしいと考えています。
ーたしかに作品を見るだけではなくて、実際に制作を体験することで見えてくるものも変わってきそうですよね。
そうなんです。また、千鳥うちわは越谷のほかの伝統工芸品と比べて、圧倒的に知る機会が少ない。
例えば、越谷には千鳥うちわ以外にだるまや人形などの伝統工芸品があります。それらは学校の見学に行ったり、協会が設立されていたりしています。
しかし千鳥うちわは1人の職人さんでつくり続けてきたので大きい団体はありません、学校の見学についてもほとんど開催しなかったそうなので、ワークショップを機に小さいころに1回触れてもらったり、見てもらったりする機会は増やしていきたいと考えています。
ー1人の職人さんで受け継がれてきたからこそ、藤田さんの心がそのような行動に働くんでしょうね。
また、僕自身さまざまな経験をして結果的にやっぱり越谷が好きだから結局ここに戻ってきました。そんな誰かの原体験をつくっていくきっかけになれたらと思うんです。
時間はかかるとは思いますが、ワークショップには小さい子から高校生、僕と同世代の30代の方などさまざまな世代が参加してくれました。都内や遠い方は群馬から越谷まで遊びにきてくれていて来てくれて。
ワークショップやイベントは積極的に開催していきたいですね。
ーかわいらしい持ち手が特徴的な千鳥うちわですが、日本の伝統として海外に向けた取り組みは行っているんでしょうか?
数年前にミラノで活動されている日本画家 奥村祥子さんに和紙に絵を描いてもらって、個展で団扇の展示販売をして頂きました。これからもさまざまなアーティストの方々とコラボレーションしていけたらなと思っています。
ほかにも、パリで”食”を通じて日本文化を伝えるバルボステという企業とも継続的に取引させてもらっていますが、店舗に置くとすぐに売り切れたという嬉しいお話をいただき、千鳥うちわの可能性を実感しています。
今後日本は観光や伝統工芸に重きが置かれていくと思うので、海外にも目を向けて発信できたらと考えています。
越谷の千鳥うちわを日本代表として海外に発信して、最終的に「千鳥うちわは埼玉県の越谷という場所でつくられているんだ」と世界中の人に認知してもらいたい。
結果的に多くの観光客が訪れる機会にもなってほしいと思います。日本人かつ越谷人。越谷シチズンを誇りに活動していきたいですね。
ー藤田さんのお話を聞いていて、改めて日本の伝統の可能性を感じました……!最後になりますが、メッセージをお願いします。
これからは若手と一緒に越谷という地域の活性化ができたらと思っています。たしかにいままでのしきたりや伝統を大切にする姿勢は必要ですが、活性化させるためには若者を巻き込んで新しい風を吹きこまなければ変わらないのかなと。
少し厳しいことを言いますが、伝統工芸を守っていくには越谷の大人たちの意識を変える必要があると思います。
実際に自分のことしか考えてなかったり、実力のある人や物が正当な評価を受けていなかったり、コミュニティが固定化されていたりする。その現状は互いに良くないですし、大人が真正面から向き合って変えていかなければ越谷の発展はゼロに近いと思うんです。
ー30代という伝統工芸の職人だからこそ、いままでの伝統かつ新しいアイデアを取り入れたいという広い視野が持てるのだと思います。これから千鳥うちわがどのように浸透していくのか楽しみです。今回はありがとうございました!
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