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主体的に動ける場を提供し、自走するひとを増やす。 “丸の内朝大学的”、プロジェクトデザインのお作法ーー「越谷ミライトーク#1」レポート

主体的に動ける場を提供し、自走するひとを増やす。 “丸の内朝大学的”、プロジェクトデザインのお作法ーー「越谷ミライトーク#1」レポート

越谷の未来を考えるトークイベント、「越谷ミライトーク」。

「早起きをして、有意義な一日を。」をテーマとした【越谷「HAYAOKI」プロジェクト】のひとつだ。

古民家複合施設「はかり屋」に店を構える「TSURUTO(つると)」の大方知子さん、宇波滉基さんがスピーカーを務め、毎回ゲストスピーカーを迎えて開催。

ファシリテーターは「KOSHIGAYAZINE」の編集長・青野祐治が務める。

KOSHIGAYAZINEで「つると」のおふたりに取材を行なったことをきっかけに始まったイベントだ。今回は、2019年4月20日(土)に行なわれた記念すべき第1回の様子をレポートする。

▽はかり屋のストーリーはこちら。

https://postcitykoshigaya.jp/2019/03/12/hakariya_story/

▽つるとのストーリーはこちら。

https://postcitykoshigaya.jp/2019/01/03/turuto/

“丸の内朝大学”の実例から学ぶプロジェクトの作り方・あり方

「越谷ミライトーク #1」のテーマは、「“丸の内朝大学”に学ぶ地域を活性化するプロジェクトデザイン」。はかり屋のクリエティブスペース「naya」で開催された。ゲストスピーカーには、丸の内朝大学 企画委員会事務局次長の山本寛明さんを迎えた。

▽「丸の内朝大学」についての内容を含む事前記事はこちら。

https://postcitykoshigaya.jp/2019/03/31/koshigaya-mirai-talk1/

土曜日の午前9時という開始時間にも関わらず、開始前には「naya」が参加者でいっぱいになった。

「社会課題の解決を図りたかった」――丸の内朝大学立ち上げの経緯

トークイベントは、自己紹介と合わせ、各自のプロジェクトの紹介からスタートする。

そもそも、なぜ「丸の内朝大学」を始めたのか。山本さんは、イベントの立ち上げ理由として、社会が抱える課題解決を挙げた。

【山本さんが考える社会課題】

・通勤ラッシュの緩和

・エネルギー問題(日が出ている間の活動時間を増やす方向へシフトする)

これらの社会問題とライフスタイルの変革とがフィットして生まれたのが、始業時間前の「my朝」を有効活用する「丸の内朝大学」だ。

プロジェクトをデザインする際、丸の内朝大学がまず重要視したのは「ターゲット層の選定」だったという。マスを狙うのではなく、上記に挙げた社会課題に意識的な層への場作りを考えたのだ。

「たとえば、“ここに来れば、誰でも美味しいものが食べられますよ”とするのではなく、“越谷のここに朝5時に来たら、ここだけでしか食べられないものが食べられますよ”とするんです。その場に集まった人たちは、“朝5時にわざわざ出向く”ハードルを越えて参加した人ばかり。それにより場に安心感が生まれ、コミュニティの密度が濃くなるんです」(山本さん)

「コンテンツ」ではなく、「朝に集まって行なう」ことへの共感をデザインのベースにし、「課題解決ベース」ではなく「想いベース」に比重を置いてデザインされた。そこに加え、丸の内朝大学のコンテンツを企画する際に3つの軸を設けたのだという。

【丸の内朝大学の3つの軸】

・ひとりではできない学び

・できるだけフィジカルな体験を

・誰かにシェアをしたくなるもの

「ひとりで学べるものは、ある程度テクノロジーで解決できるようになっている」と山本さんは語る。また、ひとりで学べるものの多くを「答えがあるもの」とし、「わざわざ朝早くに丸の内に来なくても学べる」と考えた。

丸の内朝大学は、受講生で共有できる学びを重視。学ぶプロセスにも意味を見いだせるのが特徴だ。講座は7~8回程度連続して行なわれ、最後にはアウトプットの場も設ける。ただ、そのアウトプットの場も共感できるコンテンツになるようにしているのだという。

ひとつの講座がシリーズ立てて行なわれる理由は、「型を作る」ためだという。講座により回数にバラつきはあるが、「一度作った型を、どう崩していくか」を考えているのだと山本さんは語った。

足を運んだからこそできる“フィジカル”な体験を

丸の内朝大学で行なわれている講座は、野球や健康、観光などバラエティ豊かだ。本イベントでは、一例として「お酒のコンテンツ」について語られた。

「新潟の観光推進を行なっているチームと企画しました。流通が整っている現代ですから、飲むだけでいえば発注さえしてしまえば全国どこでも飲めるわけです。丸の内朝大学では、杜氏の方がお酒を造っていく工程に触れて体験し、最後にお酒を一緒に飲むコンテンツを作りました。“酒造り”という物語を共有することで、“杜氏と飲む酒は世界一”だと思えるんですよね」(山本さん)

お酒講座の「アウトプット」は、「お酒を飲んで語り合う」ことだったという。「朝から飲んじゃうんですか?」との問いには、「飲んでも支障がない人は飲んでいましたね(笑)」と山本さん。参加者からも驚きとともに笑いが起こった。

丸の内朝大学では、全講座のうち1~2回は外でフィジカルな体験をする場を設けている。酒の講座でも、1泊2日で新潟にフィールドワークをしに行く機会を作ったのだという。前乗りや延長を各自が自由に行ない、個人的に自由に楽しむ人も多かったのだそうだ。

「サービス」ではないから提供できる楽しさがある。自走できるコミュニティへ

丸の内朝大学の特徴のひとつが、受講生たちが自ら企画運営してコンテンツを作れることだ。

「何かあったときの責任とハコの手配はこちらで行ない、あとは任せる形で終業式イベントを行なってきました。深く関わってくれる受講生は大切ですね。すでに地域の人と繋がりが作れているため、僕らはノータッチでツアーを作る人が出てくるなど、盛り上がりをみせていますよ」(山本さん)

「ただ、サービスを提供しているわけではないんです」と山本さんは言う。

場を提供し、主体的に作れる環境を用意する。そのことで、サービスとして提供されるものよりも楽しいものが作れてしまうのだ。

自治体との連携が生まれているのも、丸の内朝大学の特徴だ。「丸の内朝大学で何かコンテンツをやりたい」という人も増えているという。

そうした事例を繰り返すことで、「日本中のおもしろいことをやっている人が集まってくる場になる」(山本さん)。精力的な受講生が呼び水となり、次々におもしろいことを生み出したいが増えていくのだろう。

「個人発信では届かないと考えている人が、“丸の内朝大学なら反響があるだろう”と考えてやってくる。将来的に個人でやっていきたいと考えている人のステップアップの場、実績作りの場としても機能しています」(山本さん)

主催側がすべてを企画開催するのでは広がらない。また、バラエティ性にも欠けると山本さんは考えている。

越谷プロジェクトの変遷

丸の内朝大学の話から、越谷で行なわれているプロジェクトに話が移る。

「私は一部しか知らないとは思いますが」と前置きをし、「歴史的なプロジェクトとして越谷宿が、新しいプロジェクトとしては“珈琲の日”などがありますが、これまでは関係性を持って何かのプロジェクトが行なわれていなかったと感じます」と大方さんは語る。

宇波さんも、「それぞれが別々な感じで、“これ”というカラーが伝わってこないなと感じていました」と頷いた。

「バラバラ」だった越谷発のプロジェクトに、この1年でひとつの基盤ができた。本イベントの会場、「はかり屋」だ。

「越谷だけではなく、複数団体が手を組む難しさはどこにでもあるのではないかと思います。越谷は、“はかり屋”というシンボル的存在ができたことで、ここを基点として繋がれるようになった。私たちも、“はかり屋のつると”だからできることがあると感じています」(大方さん)

「何かをするには、コミュニケーションを取ることが大事です。“はかり屋”があることで、まずその場を作れた。それぞれが大切にしたい色が聞けましたし、聞けたうえで“こちらに向かっていこう”とまとまれたのが大きかったんじゃないかと思います」(宇波さん)

2019年3月3日(日)には、「はかり屋のひなマルシェ」を開催。このイベントは、同日開催の「珈琲の日」さらに「雛めぐり」とタッグを組む形で行なわれた。当日は小雨が降るなかでも多くの来場者で賑わい、来年に向けての期待値が上がっている。

▽ひなマルシェレポート

https://postcitykoshigaya.jp/2019/03/04/hinamarche2019/

 

「朝が絶対的な正解ではない」。文脈作りがプロジェクト成功のカギ

「ひなマルシェ」の成功に対し、大方さんは「詳細は明かせませんが」と笑みを浮かべながら前置きしつつ、「あるキャッチフレーズを作ったことで一体感ができ、同じ方向を目指せたのがよかった」と語る。

大方さんの言葉に、山本さんは「地域ごとに適した文脈を作ることが大切だ」と応じた。

丸の内朝大学は、あくまでもやりたいことが朝と相性が良かっただけであり、「朝に何かをやること」が絶対的な正解ではない。やりたいことや地域性を兼ね合わせて適した形を探ることが大切なのだ。

朝が絶対解ではないとしたうえで、山本さんは朝に活動することによるメリットを挙げる。それは、「ライフスタイルに影響を与えられること」だという。

「たとえば、“土日にヨガを始めよう”だとすると、ヨガが上手くなったり健康的になったりするだけで、その人の生活自体は変わりませんよね。それが、“始業前に丸の内朝大学に行こう”になると、“前日は早く寝よう”、“残業をせずに済むように仕事を進めよう”と生活全般を変える意識が生まれます」(山本さん)

「生活を変革したい」と思っている人にとっては、「丸の内朝大学」という場自体が意味を持つ。コンテンツ以外に共有できるものが生まれるのだ。

なかには、ライフスタイルの変革がその人の人生に影響を与えた例もあったという。

「ライフスタイルが変わったことにより転職をしたいと考え始めたり、自分でプロジェクトを起こそうと動き始めたりする受講生が出てきました」(山本さん)

越谷で進む個々のプロジェクト

ここで、参加者のなかで個人プロジェクトを行なっている人へ話を向ける。

瀬戸山匠さんは、越谷レイクタウン近くに「実験できる畑」を構え、「農業×○○」という取り組みを行なっている。

「個人的にラオスが好きで、ラオスの食べものを食べながら語るイベントを開催しました。ほかには、野菜を使った“みどりジャム”などの製造販売も実施していく予定です。今後もいろいろなことをやっていきたいんです」(瀬戸山さん)

越谷を拠点に全国で活動しているカメラマン梅津優子さんは、はかり屋で写真撮影イベントを定期的に開催している。

「つるとさんのほか、着物の着付の先生と3者でコラボを行なったり、同じはかり屋にお店を構える“green bucker”の木原さんのブーケと撮影する4者コラボを行なったり、複数が関わり合えるイベントを行なっています」(梅津さん)

設計事務所への勤務経験がある小野田将さんは、「独立を機に、これからの道を模索しているところ。新たな段階に進みたい」と語った。

越谷のプロジェクトのこれからについて、はかり屋の立ち上げ人のひとりである畔上順平さんは「知られていないイベントを掘り起こし、“越谷でもこんな素敵なことがある、やれる”と周知させていきたいと思った」と語る。

昔から続く朝活のひとつ、ラジオ体操。越谷では今でも40ヵ所で行なわれているのだという。しかし、参加者が年配層に偏るなど、多世代が交流する場にはなっていない。

多世代が交わるきっかけとして、「ラジオ体操で瀬戸山さんのジャムを売ってみたらおもしろいんじゃないか」という意見も寄せられた。

山本さんは、丸の内にはあらゆるものがあるが、土着文化がないと指摘する。越谷は人が住まう場所だからこそ、住民と作れるプロジェクトの形があるのだ。

越谷プロジェクトの今後

トークイベントの最後は、スピーカー3人の「今後」で締めくくられた。

大方さんは、「越谷ミライトークがKOSHIGAYAZINE、そして青野さんとの出会いがきっかけで誕生したように、“はかり屋”だから出会えるご縁があります。その土壌を大切に、これからもおもしろいことを作っていけたら」と語った。

宇波さんは、「興味関心が衣食住と幅広すぎるため、“これ”と言えないんですよね」と笑った。そのうえで、「年齢でターゲティングしないことをやりたい」という。

「年齢で振り落としたくないんですよね。赤ちゃんからご年配の方まで、性別年齢関係なく広がりを見せられるものをやりたいです。提案したものを好む人が自由に集まれる場を作りたい。何かと何かを掛け合わしていくことで、おもしろいものができるんじゃないかと思います」(宇波さん)

「掛け合わしたい」という宇波さんの言葉に、山本さんも同意する。そして、そのポイントは「ミスマッチ」にあるとアドバイスした。

「たとえば、“はかり屋でラテンダンス”とか、全然違うものを組み合わせるとおもしろいものができるんです。東京で農業コンテンツが流行るのも、東京=都市だからなんですよ」(山本さん)

これに宇波さんが「ロシア料理とかおもしろそうですよね」と応え、第1部は終了となった。

「インバウンド」「社会課題の解決」 盛り上がりをみせた質疑応答

第2部は、参加者による質疑応答が行なわれた。

Q:訪日外国人観光客が増え、2020年にはオリンピックパラリンピックも開催されます。インバウンド対策など、立ち位置や振る舞いについての考え方を教えてください。

A:山本さん:2020年を狙って何かを、という意味では考えていません、ただ、インターナショナルなことをやりたいとは思っています。むしろ、2020年以降に向けて日本文化の本質を発信し、伝えていくためのことを考えていきたいですね。

たとえば、海外ローカルと日本ローカルとを繋ぐ取り組みなど、国対国ではなく、もっとローカル同士で交流したいです。姉妹都市を民間で行なうイメージですね。(※越谷の姉妹都市はオーストラリアのキャンベル。何かできないかと声が上がった)

僕個人として行なっていることに、土日のオンライン日本語レッスンがあるんですが、2年間に4人が実際に日本に遊びに来てくれたんですよ。そうした関わりも楽しいですね。

大方さん:“つると”としてやりたいことでもあるので、今後も“もの”を通して海外に発信していきます。2020年は大きな機会なので、力を入れていきたいですね。まずは越谷宿を知ってもらうところから始めたいと思っています。

宇波さん:SNSなど、テクノロジーを発信ツールとしてもっと活かしたいです。2020年は発信のきっかけのひとつにしたいですね。

山本さん:“つると”さんは、あえて海外への発信に方向を定めてみるのもありだと思います。最近、訪日外国人観光客が増加したことで日本人が増えるケースが増えているんですよ。

大方さん:“つると”の取り組みのひとつ、アートだるまは、パリジャパンEXPOから連絡が来るなど、海外側からのアプローチを受けています。海外発信に絞って力を入れるのもありかもしれませんね。

青野:シェアリングエコノミーなど、都内で多く見られるようになりながらも越谷にはあまりないものがあります。Airbnb、越谷にほしいですよね。泊まれる場所を作りたいです。

Q:「丸の内朝大学」を立ち上げたきっかけのひとつが社会課題の解決だったとのお話でしたが、10年間やって感じた変化やおもしろかったことを教えてください。

A:山本さん:丸の内朝大学の受講生だけで通勤ラッシュが緩和されるといった、目に見える変化はありません。ただ、意識には働きかけられたんじゃないかと思っています。10年前は「働き方改革」や「フレックスタイム制」といったことが始まりだした頃でした。今、そのムーブメントは大きなものになっています。「個人のライフスタイルの見直し」という流れを作り出すひとつにはなったんじゃないかな。

青野:コンテンツ数も増えましたよね。

山本さん:はじめは4~5個から始まって、20~30くらいにまで増えましたね。10年やってお休みに入っていましたが、これからは地域を盛り上げることも考えていきたいです。

青野:どういったものでしょうか。

山本さん:地域の人不足に対するアイディアを出したり、あとは商品開発をしたりしたいですね。丸の内朝大学では、受講生が主体となって「丸ビア」という地ビールをクラウドファンディングで開発したんです。丸の内には「地のもの」がないから、作ってみようということで。

社会課題そのものに作用させるのではなく、地域規模の小さな動きをすることで、時代が先取りできたのがよかった点かなと考えています。

出会いを掛け合わせ、新しいプロジェクトを作っていく

「地域創生にはこだわらなくてもいい」。

イベントの最後に山本さんが言った言葉だ。いろいろなところと関係性を作ってコラボレーションをしていくことで、今後も新たなプロジェクトや場を生み出したいと語った。それが、最終的に地域を盛り上げていくことにも繋がるのだろう。

大方さんは、「越谷宿を、海外から目指してくる場所にしたい」と語る。はかり屋は古きと新しきが出会うクリエティブな場だ。その場を活かし、集まってきた人と何かとんがったプロジェクトを行なっていきたいとまとめた。

「僕が最後なのは嫌だったなあ」と苦笑しながら、宇波さんは「ニュージーランドに行っていたときには、越谷を説明しても“だから、東京でしょ?”と言われていた」と体験を語る。

近い場所にあるため、「東京」も「埼玉」もないのだ。「一緒にされてしまわないよう、知名度を上げよう」というのではなく、宇波さんは「県境など、境界線を取っ払いたい」と語った。

もっと気軽に、もっと多くの人が足を運べる街に。ひとつの「楽しいこと」を膨らませ、時に掛け合わせていくことで、越谷はもっと盛り上がっていく。

〈取材・文・撮影卯岡若菜 

第二回目の越谷ミライトーク開催決定!詳細はこちらをドン!

【イベント情報】越谷の未来を考えるトークイベント、第2回「越谷ミライトーク」を開催! テーマは「松戸市の活性化に貢献 “omusubi不動産”に聞く、空き家を活かした地域コミュニティのつくりかた」@はかり屋

このイベントの模様は「KOSHIGAYAZINE」youtubeチャンネルで全編公開中です!詳細は下記の動画をドン!

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