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「かけジャム」の次は「くわいバター」。越谷の地場野菜を使用したレストラン「カポナータ」が描く“ささやかな”野望

埼玉県越谷市の市立病院近く、閑静な住宅街にたたずむイタリアンレストラン「カポナータ」は今年で開店18年。そのオーナーシェフを務める鈴木実シェフが大事にするのは地元越谷とのつながりだ。

こしがやブランドに認定されている「苺のかけジャム」で、2016年には「TOKYO&AROUNDTOKYOブランド認定観光振興推奨賞」を受賞し、今は特産物のくわいを使ったバター作りに取り組んでいる。

そんな越谷で最も有名なシェフと言っても過言ではない鈴木実氏に、成功の理由と越谷への思いを聞いてみた。

今回ご紹介する「KOSHIGAYA ZINE」

鈴木 実(すずき みのる)

 

1965年生まれ、東京都出身。調理師専門学校を卒業後はホテルシェフの道へ。2000年、地場野菜イタリアン「カポナータ」を開く。地元の食材を使った「かけジャム」は越谷の新しい名物商品に。

聞き手:高梨 リンカ(たかなし りんか)

ローカルWebメディア「KOSHIGAYAZINE」特派員ライター。越谷生まれ、越谷育ちの30代。教育やライフスタイルを中心にWebライターとして活動中。

海外のレストランは地場野菜を使うのが当たり前。「カポナータ」がオープンするまで

ー自分の店を持つことは昔から考えていたのですか。

いえ、もともとはホテルでコックをしていました。時代とともに売り上げも落ち、コックの地位も下がってしまいました。思い描いていたコック像と違ってしまったんですよね。そこで自分で店をやることを考え始めました。コックをしながら準備を進め、レストランを開いたのは2000年、35歳のときでした。

ー開店の地を越谷にしたのは何か理由があるのでしょうか。

単純に「住んでいたから」ですね。出身は東京ですが、引っ越して越谷に住んでいました。家から店が遠いと生活に無理も出てしまうでしょうし、それが自分の店ともなればなおさらです。

海外のレストランは地元のものや特産品を使うのが当たり前。おもてなし、ですね。レストランをやる以上、地域に根ざしたものにしなければと考えていました。

だから自分の住んでいる越谷で店を開き、地元に何か貢献できればと思ったんです。ただ越谷には使える地元野菜があるのかは分からなかったので、自分で作ろうと思いました。自家製は信頼してもらえますしね。

ー野菜を作って料理もする。それはなかなか大変なのでは?

結論から言うと無理でしたね(笑)

本格的に店を開く2年ぐらい前に、野菜の作り方などを知るため農業普及センターに相談しました。そこで越谷のくわい農家さんを紹介してもらったんですが、やっぱり言われましたね。「店と農業を両方やるのは大変すぎるよ」って。

△カポナータの代表作、「いちごのかけジャム」

出典:Tokyo & Around Tokyo

その通りだと思ったけれど、とりあえず農業を知るため農家さんに研修へ行きました。研修を続けると信頼してもらえるんですよね。さらに別の農家さんを紹介してくれるようになり、またそこで研修をして紹介してもらって……。気づくと多くの農家さんとのつながりができていました。

結局ここで得たつながりが元になって、自家製野菜ではなく越谷周辺の野菜を仕入れて店で使うことになりました。

閑古鳥が鳴いていたオープン当初から一転、時流に乗って成功へ

ー開店当時。地元の野菜を使ったレストランの評判はどうでしたか?

全然でしたね。お客さんが2人しか来ない日もあって、大赤字ですよ(笑)

暇って人をダメにしますね。精神的にも落ちていきました。視野も狭くなったし、初めて人生で挫折を感じましたよね。

ーそんな時期もあったのですね。やめようとは思わなかったのですか?

お客さんは来ませんでしたが、来てくれた方からの評判は悪くなかったんです。不思議とうまくいく予感もありました。何の根拠もないんですけどね。

そんなとき、同じ時期ぐらいに店を始めた友人から電話が来たんです。始めは忙しかったのにどんどんお客さんが減ってしまったって話を聞いて、「俺だけじゃないんだ」って思いました。肩の荷がスーッと降りていく気がして、なぜかこれから忙しくなるんじゃないかなって予感がしたんです。不思議ですよね。

店はガラガラでお客さんが来る気配もない。それでもお客さんの評判は良かったんです。“成功は徐々には来ず、一気にドーンとやってくる”っていう成功の法則を聞いたこともあって、今がこれなんじゃないかと。

こんな根拠のない自信しかなかったんですけど、なけなしのお金と借金をお店のシステム作りや広告に突っ込んで勝負に出ました。

ー私には絶対にできない行動です……。

自分でも今考えると、頭おかしいんじゃないかと思いますね(笑)

その頃埼玉県では、地元の野菜を地元で消費していないというのが問題になり始めていました。「地産地消」ってやつですね。カポナータでは地場野菜を使っていたので、これも追い風になりました。

県が指定する特別栽培農産物利用店にエントリーすることになり、マスコミからも注目され、お客さんも一気に増えた。時代に押し上げられた格好ですね。

味だけではうまく行かない。成功するには「運」も必要

ー一気に繁盛店へと成長したのですね。成功の秘訣はやはり時代を読む力でしょうか。

もちろんそれも大切だと思います。でも時代なんてそう読めませんからね。

ー他にもあるのですね。では味でしょうか。

確かにマズければお客さんも来てくれないでしょうが、味の良い店はたくさんありますからね。それにトレンドもどんどん変わる。味だけでは生き残れません。

ーでは成功の理由は何だったのでしょうか。

私も最近気づいたんですけどね。店が繁盛した理由は「たまたま」だったと思うんです。

ー「たまたま」運が良かったから成功したということですか?

もちろんただの偶然ということではありません。私も必死でやりましたからね。死ぬ気でやればできないことはないと思いましたけど、頑張ったから成功したということでもないんですよね。

実力があれば成功できるわけでもないですし、努力をしていない人は成功できない。頑張り続けた人だけが成功する権利を得て「たまたま」成功できるんじゃないかなと。思い返してみれば、という感じですけどね。

ー努力してスタートラインに立って、あとは「たまたま」だったと。

そうですね。でも一度成功したからといってそれが続くとは限りません。「たまたま」のチャンスをもらってからも走り続けないと。

ーではシェフもまだまだ走り続けているのですね。

そうなりますね。ただ今はお世話になった人たちに恩返しするために走っているような感じです。

いろいろな人に助けてもらいましたし、見えないところで応援してくれた人もたくさんいます。そういう人たちに恩返しをしていくことで、周りも幸せになっていけばいいなと思うんですよね。

50歳までは自分の財を成すためという部分もありましたが、今は世の中のために生きたいという気持ちが強くなっています。話すのもコミュニケーションをとるのも好きですからね。

みんなと協力して越谷を盛り上げていきたいです。

「かけジャム」から「くわいバター」へ。越谷の特産品を、もっと食べやすくするために

ーところで、越谷の地場野菜はどうですか?

レストランでは多くの食材を使ってきました。最近ではイチゴに注目が集まっていますが、行列のできるトマトもあります。有名どころのネギも、パスタと合わせるイメージはないかもしれませんが、クリームとの相性がすごく良いと思うんですよね。

ーネギとクリームは想像がつきません……。そういえば今日のランチメニューにあった冬瓜のパスタも意外な組み合わせでしたが、甘みがあっておいしかったです。

先入観ですよね。冬瓜もネギもパスタに合わせるという発想がない。

食は保守的でなかなか冒険できないものですし。奇をてらうつもりはないのですが、常識はどんどん覆していきたいとは思っています。お客さんのびっくりした顔も見たいですしね。

でもひとつだけ心残りがあって。くわい……越谷の特産品のくわいがどうしても使いこなせなかったんですよ。

ーくわい……やっぱり原因は苦みですか?

そうですね。独特の苦みが難しかったです。店を出して18年、パスタにしたかったのですができませんでした。それがずっと引っかかっていたんです。最初に頼った農家さんもくわいを作っているところだったし。

ー因縁を感じますね。

どうしても諦められませんでした。特産品ですし全国的に珍しい食材ですからね。くわいの可能性を信じたかった。

それでずっといろいろと試してきて、昨年やっと商品化することができました。

ーパスタにできたんですか?

いえ、パスタではなくバターなんです。ジャムバターといったほうが良いでしょうか。一見するとカスタードクリームのような感じで苦みもありません。イモだからマッシュポテトをイメージしたらどうなるかなと。ちょっとした思いつき、たまたまできました。

ーここでも「たまたま」なんですね。

そうですね。ずっとくわいの苦みと戦ってきました。泣かされましたね。たまたまマッシュポテトのイメージで作ってみたらうまくいったので、やっぱり常識を打ち壊す自由な発想が重要なんだと実感しました。

商品化はしましたが、まだ納得いかないというか、まだ良くなるんじゃないかと改良を重ねています。

ーまだまだくわいとの戦いは続きそうですね。

特産物はみんなに愛されて自慢できるもののはずなのに、越谷でもほとんどくわいは売っていないし食べることもない。苦いから子供は嫌がりますし。

でもバターなら苦みもなく、1年中くわいを楽しめます。せっかくの特産物で伝統野菜なのだから、誰かが声を上げて残していったほうが良いですよね。それが本物ならいつか時代が押し上げてくれる。そう思ってくわいと向き合っています。

ー最後に、地元越谷への思いを聞かせてください。

人には「田舎だ」「何もない」とか言っても、結局みんな自分が住んでいる街って好きなんですよね。

次の世代につなげる社会を考えていけば必然的に街は盛り上がると思います。越谷が活性化して盛り上がり、もっともっと住みやすく愛される街になったら良いですね。

編集後記

レストランから商品開発へと活動を広げ、50を過ぎてもなおバイタリティ溢れるシェフの言葉は力強い。

終わってから注目される店は良い店。いつか店がなくなってから、「昔カポナータっていうすごくおいしいお店があったんだよ」と誰かに語られるレストランになれば最高だと語る。

 

▽今回お話をうかがった場所

地場野菜イタリアン カポナータ

住所:埼玉県越谷市東越谷6丁目122−3

営業時間:11:30〜15:00(L.O.14:00)、17:00〜22:00(L.O.21:00)

定休日:水※毎週火曜のディナーはお休み

TEL:048-967-0077

URL: https://r.gnavi.co.jp/g568900/(ぐるなび)

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